ゴー宣DOJO

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切通理作
2011.12.19 05:12

「前夜」にうなされて

 おとといの夜、発売されたばかりの雑誌「前夜」創刊号(小林よしのり責任編集、幻冬舎)をひととおり読んでからベッドに入ったら、悪夢にうなされてしまいました。

 自分が『蜘蛛の糸』のようなシチュエーションで囚人の一人になって、地下に蠢いている夢です。

 

 放射能を測定していくデータが詳細に記され、国の決断がなされないために犠牲になっている人々の実体が記されるゴー宣「東京と飯館村、放射能恐怖の落差」。

 東京の放射線量で「怖い」と騒いでいる人たちは、逆に、いまでも犠牲を強いられている福島のことを考えたくないのではないかと、読んでいて思いました。

 見出しにもあったように、「放射能を正しく怖がる」ことが必要なのではないかと。

 

 そして、なぜか密閉された中で、前近代的な暮らしを送る、なにやら一癖も二癖もありそうな人物が蠢く架空の村を、ヘリで上から観察していた二人組が撃墜されて迷い込むところで「次回に続く」となる小林さんの新作ストーリー漫画『10万年の神様』。

 

 小林さん自らが描くその現実とフィクションを両極として、各執筆陣のコラムや漫画も、確固たる価値観を披歴するものよりも、人間の裏側を忌憚なく晒すものが目立ちます。

 巻頭の女子対談にも出席している沖田×華さんの漫画『ごーざらし放浪記 前麻のカクテル』は、「自分の通っている場所がもしこうだったらどうしよう」と思わせる病院の内幕が、面白おかしくエピソードとして紹介されているだけに、底知れぬ不安が掻き立てられます。

 

 私がおとといに悪夢を見てしまったのも、小林さんをはじめとする各執筆陣の世界が、折り重なって、自分個人に留まらないいまの日本の不安の層が浮き彫りになったためではないか……と思いました。

 

 そして昨日は、今年最後の、ゴー宣道場チャンネル配信動画『切通理作のせつないかもしれない』の収録で編集長の小林よしのりさんとお会いしました。

 前夜の悪夢を伝えたら、こうおっしゃっていました。

 

 「『わしズム』の時のような威勢の良い、読んですぐ力が湧いてくるような雑誌をやっていた時から数年経って、わしはもう保守論壇の<カラ元気>に飽き飽きしてる。『前夜』ではもっとみんなが潜在的に感じている不安やダークな部分を出しかった」と。

 

 世の中が変わる「前夜」。それは崩壊の恐怖すらも、正しく受け止めることから始まるのではないでしょうか。

 足元が揺らいでくるような混沌から、いったいなにが生まれるのか。

 同時代の蠢動を、あなたも感じてみませんか?

 

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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